手加減することの大切さ

『アンパンマンの敵役ばいきんまんは、あまり悪者らしくない。
ドキンちゃんのわがままに振り回されてばかりだし、「とどめだー」と叫ぶわりに、
アンパンマンをとことんやっつけたりはしない。それはお互い様であるだろう。
アンパンチを打たれても、ばいきんまんは自分の家に逃げ帰るだけだ。
どちらも徹底的には打ちのめさない。
「その手前で止めるということが、ぼくは大事だと思っています。」作者はそう言った。』
【朝日新聞:令和5年8月1日・天声人語より引用】

このコラムを目にして、「手加減」することの大切さを改めて感じたところです。

「手加減」を辞書で引くと、〔相手や状況に応じて、扱いの厳しさの度合いをゆるめること。てごころ。〕
とあります。
つまり、相手に配慮した行動や思いやりの気持ちが備わっている行為ということではないでしょうか。

手加減ができない

以前、このような話を聞いたことがあります。

最近の子供たちは、けんかをすると相手がけがをするまでやってしまう。
どの程度の力を加えると相手にけがをさせてしまうのか、手加減を知らないというのです。
裏を返せば、昔はそのようなことは少なかったということです。
では、どのような理由で“最近の子供”は手加減ができなくなってしまったのでしょうか。
要因の一つに、ゲーム(テレビゲームやスマホゲーム)での経験が考えられます。

銃や光線などで相手を攻撃するシューティングゲームや格闘技や武道の試合、
決闘をモチーフにした対戦型ゲームなど、ゲームの世界(非現実の世界)では、
実際に痛みを感じることはありません。
こうした経験ばかりを繰り返すと、現実と非現実の区別ができなくなってしまい、
前述のようなことが起きてしまうことになります。

ロールプレイングゲームは、自分に割り当てられたキャラクターを操作して冒険や決闘、
戦闘などに参加するゲームです。
様々な試練や困難を乗り越えてゴールを目指すわけですが、
途中でゲームオーバーとなってしまうことがあります。
そもそも簡単にゴールできてしまうゲームでは人気も出ません。
多くの試練を乗り越えて目的を達成するところに魅力を感じ楽しいのだと思います。
当然、ゲームオーバーを何度も迎えることになりますが、
リセットボタンを押せば次のゲームを始めることができます。
ここにもまた、現実の世界と非現実の世界との混乱が生まれます。

現実の世界で死を迎えてもリセットできる、再び生き返ることができると考えてしまうようです。
実際に中学生の35パーセントくらいの人は死んだら生まれ変わりができるという
未熟な死生観を持っていることが過去の調査で明らかになっています。

居心地のいい場所に

2学期が始まり1か月が経ちました。
夏休み明けは子供の自殺が増える時期です。
学校関係者の多くはこの時期をいつもにも増して緊張感を持って過ごします。
学校がしんどい子にとって夏休みは、しんどい場所から一時的に開放される時間です。
学校が始まれば、クラスに溶け込めない子にとっては再びしんどい場所に戻らなければならないのです。
子供は大人が想像するより遙かに“学校が世界の全て”のように感じています。
そこが居心地のよくない場所だとしたら・・・。

子供のSOSを察知したら、まず、子供の置かれている現状に理解を示すことから始めましょう。
そして、必要な手加減をしながら対応することが大切だと考えます。